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松山地方裁判所大洲支部 昭和31年(ワ)20号 判決

原告

宮上〓

被告

渡辺フミコ

外一名

主文

被告久保好明は、原告に対し金一六〇、三八四円、及びこれに対する昭和三一年六月二日からその支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告の被告久保好明に対するその余の請求、及び被告渡辺フミコに対する請求を棄却する。

訴訟費用は、そのうち被告久保好明との関係で生じた分は四分し、その一を原告の、その余を同被告の負担とし、

被告渡辺フミコとの関係で生じた分は、原告の負担とする。

原告は、第一項について、これを仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

(一)  争の基礎たる事実関係

本件山林が原告の所有に属すること・被告久保が昭和三一年四月上旬頃に、第一係争地及び第二係争地のすぎ立木を争ないところの実姉たる被告渡辺所有の一七四番地の一のすぎ立木と合せて、訴外鎌田政一及び同中井某に売渡し、同人らにおいて、これを伐採搬出して処分したことは、当事者間に争ない。

(二)  第一係争地の帰属について

ところで、第一係争地は、以下述べる理由により、原告の所有に属す本件(イ)山林と認めるを相当とする。すなわち

(イ)  本係争地に近接するところの一七二番地の五、一七二番地の一及び一六六番地の所在箇所は、別紙(省略)図面のとおりであつて当事者間に争ない。

(ロ)  (イ)の事実に、成立について争ない甲第二号証及び同第四号証を総合して考えると、一六六番地と本係争地との間に一六五番地が位置しなければならぬこと、及び本係争地は大体本件(イ)山林に該当する位置に所在しなければならぬことが明らかである。

(ハ)  そうして、検証の結果(第一、二回)によると、別紙図面(き)(め)(し)(ゑ)(ひ)及び(と)各点に歴然とした境石が存在しておることを認めることができるから、(ロ)の事実と総合して、それは、被告渡辺所有の一七四番地の一との境界と解しなければならぬ。

(ニ)  したがつて、証人大宮伊高、同菊地賢(第一、二回)、同植本勇、同北岡務及び同山尾弥八(第一、二回)の各証言を採用せざるを得ない次第であつて、これら証言を総合すると、本係争地は、本件山林(イ)すなわち原告所有の一七三番地であることが極めて明白であつて、右認定事実に反する趣旨の証人楠野均(第一、二回)、同上田文吉及び同渡辺安雄の各証言は措信し難い。

(三)  第二係争地の帰属について

しかしながら、第二係争地が、本件山林(ロ)の一部であることを認めるに足る十分の証拠はない。すなわち

(イ)  証人沼田長栄の証言によると、同人は、以前本件山林(ロ)を所有していたものであるものゝところ、本係争地の範囲が本件山林(ロ)の一部であることは、十分知つていないことが明らかである。

(ロ)  証人宮上チヨウの証言によると、同人は、原告の養母で、本件山林を原告に贈与したものであるが、その範囲は本係争地を含むと聞いているものゝ、現地についてそれを確めたことはないと述べており、その証言は信憑性が少い。

(ハ)  たゞ、証人沼田峯三郎の証言によると、同人は、本件山林(ロ)を知つており、それは五、六畝くらいで本係争地と一致する旨述べているが、検証の結果(第二回)によると、本件山林(ロ)は、本係争地を別としても一反五畝歩以上あるから、右証言は措信し難い。

(ニ)  そうして、甲第四号証によると、被告らが一七五番地の三の一部と称する第一係争地と本係争地の中間の土地部分は、原告主張のとおり一七四番地の一であつて、官有地であること争ない一七四番地の三は、一七四番地の一を再分筆したもので、原告主張の範囲にわたるものと推測することができるが、一方右甲第四号証及び甲第二号証を総合して、一七五番地の一が右一七四番地の一及び二の北境から外れ、南に延びて本件山林(ロ)と接していることをうかがうことができ、そうすると、本係争地の一部もしくは全部が一七五番地の一に包含されるものゝごとくである。

(ホ)  あるいは、証人西山幸蔵(第一回)及び同楠野均(第一、二回)の各証言を信用するとすれば、本係争地は、一七五番地の一であることに決定ずけられるわけであるが、両証人の証言には少くとも一部づゝ措信し難い面がある。―楠野証人については前記(二)の(ニ)のとおり・西山証人については、第一係争地と本係争地の中間の土地部分が一七五番地の三であると述べている点は前記(三)の(ニ)のとおり―ので、それをそのまゝ信用することはできない。

(ヘ)  しかしながら、以上の理由により本係争地が一七五番地の一の一部であると言えないまでも、本件山林(ロ)すなわち原告所有の一七四番地の二の一部であることの確証はないことゝなるものである。

(四)  被告久保の責任

一、したがつて、被告久保は、本件山林(イ)のすぎ立木を故意か、少くとも、過失に因つて鎌田らに対し売渡したもので、その結果、原告は、その当時の右すぎ立木の時価相当の損害を蒙つたことゝなり、同被告は、原告に対しこれが賠償の責を負う筋合であるが、その金額は、鑑定人柁谷糸治郎の鑑定の結果にしたがい金一六〇、三八四円と認めるを相当とする。

二、なお、原告は、伐採適齢期前一〇年尚早に伐採されたことにより得べかりし増収一〇〇、〇〇〇円―第二係争地のものと合せて―を失うたと主張するが、その計算の基礎は明らかでなく、立証もないから、右主張を採用することは到底できない。

(五)  被告渡辺の責任

被告久保は、被告渡辺所有の一七四番地の一のすぎ立木と合せて本件山林(イ)のすぎ立木を売渡したもので、被告渡辺は、被告久保の実姉であることは、前述のとおり争ないところであつて、この事実から考えて、被告久保の前記不法行為については、被告渡辺にその認識があつたことを推測するに難くないが、しかしながら、それ以上に進んで、同被告がそれに加功したことは、これを認めるに足る十分の証拠がない。

(六)  結語

したがつて、被告久保は、原告に対し、単独で金一六〇、三八四円及びこれに附帯して本件訴状が同被告に送達された日の翌日たる昭和三一年六月二日以降にわたる年五分の割合の遅延損害金を支払う義務を負うものと言うべく、原告の主張はその範囲において理由があるから、本訴請求はそのうち被告久保について右理由のある主張の限度においてこれを認容し、同被告に対するその余の請求部分、及び被告渡辺に対する請求を棄却するものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条及び第九二条―被告久保との関係において―を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項第三項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 水地巌)

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